労働判例 労働問題 弁護士
2009/12/26
弁護士の吉村です。
本日は、労働判例をご紹介いたします。
東京都自動車整備振興会事件
東京高裁(平成21年11月4日)
判決窓口や電話での対応の悪さに対して苦情が多い職員に対する降格処分には十分な根拠があるとして、処分を無効とした原判決を取り消した例
【事件の概要】
この事件は、法人(控訴人)から、副課長から係長に任ずるとの命令(本件降格処分)を受けた被控訴人(原審原告)が、本件降格処分は不当労働行為であって無効であると主張して、本件降格処分の無効確認、副課長たる雇用契約上の地位にあることの確認および減額された役職手当の差額等の支払いを求めたものです。
原審である東京地栽が、本件降格処分は無効であるとして、地位確認、役職手当の差額請求および慰謝料等の支払いを求める限度で被控訴人の請求を認容したため、控訴人が控訴し、控訴人敗訴部分の取消しと取消しに係る被控訴人の請求部分の棄却を求めた。したがって、控訴審においては、会社敗訴部分のみが審理の対象となる。
【判示事項】
本件降格処分は、懲戒処分として行われたものではなく、法人の人事権の行使として行われたものであり、このような人事権は、労働者を特定の職務やポストのために雇い入れるのではなく、職業能カの発展に応じて各種の職務やポストに配置していく長期雇用システムの下においては、労働契約上、使用者の権限として当然に予定されているということができ、その権限の行使については使用者に広範な裁壁権が認められるというべきであるとしました。
そして、本件降格処分については、その人事権行使に裁量権の逸脱又は濫用があるか否かという観点から判断していくべきであるところ、その判断は、使用者側の人事権行使についての業務上、組織上の必要性の有無・程度、労働者がその職務・地位にふさわしい能カ・適性を有するか否か、労働者がそれにより被る不利益の性質・程度等の諸点を総合してなされるべきものであるが、それが不当労働行為の意思にもとづいてされたものと認められる場合は、強行規定としての不利益取扱禁止規定(労組法7条1号)に違反するものとして、無効となるというべきであるとしました。
さらに、不当労働行為の意思にもとづいてされたものであるかどうかの認定判断は、本件降格処分を正当と認めるに足りる根拠事実がどの程度認められるか否かによつて左右されるものであり、処分を正当と認める根拠事実が十分認められるようなときは、不当労働行為の意思にもとづくものであることは否定されるというぺきであるとしました。
これを、本件事案で見ると、会員の会費によつて活動がまかなわれ、会員に対するサーピスを業務とする法人にとっては、被控訴人の窓口対応、曙話対応の悪さに関する会員の不満、苦情に対処して何らかの対応措置をとるべき業務上の必要性が大きいことは容易に看取できること、また、他の職員を指導したり、仕事のうえで模範になるべきポストに会員から苦情が続出している者を就けておくことが組織上の観点からふさわしくなく、被控訴人は、副課長としての能カ・適性に欠けると判断したことが、合理性を欠く判断であるとはいえないことが明らかである。
これらの点に、本件降格処分は、副課長から1ランク下の係長に降格するだけのもので、役職手当上の不利益もわずか本給額の1パーセ・ントの違いにすぎないこと等を総合すると、法人が本件降格処分をしたことにつき、裁壁権の逸脱又は濫用があるとは認め難いとしました。それゆえ、本件降格処分には十分な根拠が認められるから、本件降格処分が、被控訴人の組合活動を嫌悪して、不当労働行為意思からされたものであるとは認め難いとしました。
(以上、労働経済判例速報(NO2055)引用。)
第一審と控訴審の結論を分けたのは、降格処分の理由となった、労働者の職務態様及びそれに対する顧客からのクレームの有無についての事実認定の差にありました。第一審では、会社側の立証は不十分(陳述書だけだったのでしょうか?)とし、労働者本人の尋問結果を優先して事実認定をしていました。
それに対し、控訴審では、会社側証人を証言を全面的に信用して事実認定をしたため、第一審とは異なる結論となりました。
降格には、職位や役職を引き下げるものと、職能資格制度上の資格や職務等級制度上等級を低下させるものとがありえます。また、懲戒処分としての「降格」や業務命令としての「降格」とがあります。
そして、人事権による役職・職位の降格は、基本的には使用者の経営上の裁量的判断が尊重されますが、当該降格が社会通念上著しく妥当性を欠くなど、使用者に委ねられた裁量の範囲を逸脱する場合には、権利濫用として無効とされます。
その際、権利濫用か否かは、
⑴ 使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度
⑵ 能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度
⑶ 労働者の受ける不利益の性質及びその程度
などの諸事情を総合的に考慮することが求められます(上州屋事件 東京地判H11.10.29労判774-12)。
本件も上記枠組みに沿って判断し、裁量権の逸脱又は濫用があるとは認めがたいと判断しました。
以上、ご参考になれば幸いです。