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14日の判決は衝撃的でした

 

直前停車行為(時速0㎞)は「重大な交通の危険を生じさせる速度」ではない

といいながら、その直前のあおり運転と死傷結果の因果関係を認めて

危険運転致死傷を成立させるという判断でした

 

報道に出ている判決要旨や判決メモを参考に

今回の判決の問題点を指摘し、解説させていただきたいと思います

 

 

(争点になっている第3事件の罪となるべき事実の概要)

※ 注目すべきところを太字にしています

横浜地裁の認定した罪となるべき事実は以下のとおりです

 

被告人は、平成29年6月5日午後9時33分頃、自動車を運転して神奈川県の通称証明高速道路の片側3車線道路の第2車両通行帯を進行中、

パーキングエリアにおいて被害者夫から駐車方法を非難されたことに憤慨し、同人が乗車する被害者妻運転の自動車(被害車両)を停止させようと企て、

同自動車道下り54.1キロポスト先道路から54.8キロポスト先道路の間において、同車の通行を妨害する目的で、

第2車両通行帯を走行する同車を時速約100㎞の速度で左側から追い越し同車直前に車線変更した上、減速して自車を被害車両に著しく接近させ、

自車との衝突を避けるために第3車両通行帯に車線変更した被害車両直前に時速約100㎞で車線変更した上減速して自車を被害車両に著しく接近させ、

自車との衝突を避けるために第2車両通行帯に車線変更した被害車両直前に時速約100㎞で車線変更した上、減速して自車を被害車両に著しく接近させ、

さらに、自車との衝突を避けるために第3車両通行帯に車線変更した被害車両直前に時速63㎞で車線変更した上、時速約29㎞まで減速して自車を被害車両に著しく接近させたことにより、

同日午後9時34分頃、前記自動車道下り54.8キロポスト先道路に同車を停止することを余儀なくさせ、

同日午後9時36分頃、後方から進行してきた大型貨物自動車を被害者の子らが乗車していた被害車両に衝突させて同車を押し出させ、

自車に衝突させるなどするとともに、これらいずれかの車両を被害車両付近にいた被害者夫及び妻に衝突させて被害者夫及び妻をそれぞれ死亡させるとともに、被害者の子らにそれぞれ傷害を負わせた。

 

★注目点

直前停車行為ではなく

減速して被害車両に「著しく接近」させることを

危険運転致死傷罪の犯罪行為(実行行為)と捉えている

 

★問題点

時速約29㎞まで減速して著しく接近させたことによって被害車両を停止することを余儀なくされたとの事実認定

 

⇒時速29キロで減速接近しただけなら被害車両は停車していない

著しく接近した後に被告人車両が停車したから被害車両も停車したという事実経過ではないか

 

詳しくは後述しますが、直前停車行為という重大な前提事実が、危険運転致死傷罪の要件を満たさないため、敢えて罪となるべき事実から外している?

(事案の本質を無視して、都合のいい事実を切り取り?)

 

 

(今回の事件の争点)

第3事件の危険運転致死傷罪の成否に関する争点は、

①被告人が被害車両の直前で自車を停止した行為(直前停止行為)について、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転したと言えるか否か
②被告人の運転行為を被害者らの死傷結果の間の因果関係の有無

 

争点①)

被告人が被害車両の直前で自車を停止した行為(直前停止行為)について、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転したと言えるか否か

 

「重大な交通の危険を生じさせる速度」の定義(速度要件)

通行を妨害する目的で特定の相手方に著しく接近した場合に

自車が相手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認められる速度又は相手方の動作に即応するなどして

そのような大きな事故になることを回避することが困難であると一般的に認められる速度

 

直前停止行為(=時速0㎞で停止)は、一般的・類型的に衝突により大きな事故が生じる速度又は大きな事故になることを回避することが困難な速度であると認められないことは明らか

また、文言上自動車を進行させることが要求されていると解され、停止まで含まれると読み取ることは文言の解釈上無理

速度要件を求めた方の趣旨や立法経緯からも無理

 

★注目点

この部分はまさにそのとおり

※ 法律解釈は裁判官の専権事項です

 

 

 

(争点②)

被告人の運転行為を被害者らの死傷結果の間の因果関係の有無

 

横浜地裁の認定(ある意味ここが一番大事)

 ア 被告人は、パーキングエリアで被害者夫から非難されたことに憤慨し、被害車両を停止させて被害者夫に文句を言いたいとの一貫した意思の下で、4度の妨害運転に及び、4度目の妨害運転後にも減速を続けて自車を停止させたものであるから、 被告人が被害車両の直前で自車を停止させた行為は、妨害運転と密接に関連する行為といえる。 被害車両は、被告人車両の短時間での4回にわたる妨害運転に対し、 車線変更するなどして逃れようとするも逃れることが出来なかったこと、被告人車両の3度目の妨害運転の際の被告人車両の進入・接近状況、減速状況や当時の交通量からすると、被告人車両の4度の妨害運転により、被害車両は停止せざるを得なかったというべきである。
 さらに、両車両の停車状態からすれば、被告人車両が被害車両の前方に停止したために被害車両は停止し続けることを余儀なくされたということができる。
 また、当時被害車両の置かれた状況からすれば、被害車両が4度の妨害運転によって第3車両通行帯上に停止し、 かつ、停止を継続したことが、不自然、不相当であることはいえない。
 そして、両車両が停車した後、被告人が被害車両に近づき被害者夫に対して胸ぐらを掴む暴行を加えたり文句を言っていたことも、被害車両を停止させて被害者夫に文句を言いたいとの被告人の妨害運転行為開始当初からの一貫した意思に基づくものと認められるから、 やはり妨害運転と密接に関連する行為といえる。
 さらに、本件事故現場は、片側3車線の高速道路の追越車線に当たる第3車両通行帯で、 本件事故現場には照明等が設置されているとはいえ当時は夜間であったこと、本件事故現場付近は相応の交通量があったことを踏まえれば、 被害車両の後続車が衝突を回避する措置をとることが遅れて追突する可能性は高く、かつ、一旦そのような事故が発生した場合の被害者らの生命身体に対する危険性は極めて高かったと認められる。
 また、本件事故は、被告人車両及び被害車両が停止してから2分後、被告人が被害者夫に暴行を加えるなどした後、被告人車両に戻る際に発生したもので、前記の追突可能性が何ら解消していない状況下のものであった。
イ 以上によれば、本件事故は、被告人の4度の妨害運転並びにこれと密接に関連した被告人車両及び被害車両の停止、被害者夫に対する暴行等に誘発されて生じたものといえる。
 そうすると被害者夫らの死傷結果は被告人が被害車両に対し妨害運転に及んだことによって生じた事故発生の危険性が現実化したに過ぎず、被告人の妨害運転と被害者らの死傷結果との間の因果関係が認められる。

★注目点

一貫した意思に基づいて、停車させたことも、胸ぐら掴む暴行も、妨害運転と密接関連する行為

『妨害運転⇒被告人車両も被害車両も停車⇒その後の停車継続』は不自然不相当ではない

現場は危険で追突の可能性大

これらから妨害運転並びにこれと密接に関連した停車・暴行に誘発されて生じた死傷結果だから因果関係あり

 

 

★問題点(ちょっと厚めに)

この裁判所の判断は検察側の主張に沿っているものです

 

<検察官の主張>

検察官は、完全停止行為(時速0㎞)が妨害運転に当たらないとしても

直前のあおり行為(直前侵入と減速による幅寄せ)と死傷結果には因果関係があると主張していました

 

 

 

 検察官がよって立つ根拠=『平成16年10月19日最高裁判決』

『高速道で、被害者の運転態度に立腹して、被害者に謝罪をさせるために被害者の車を停止させて暴行を加えて立ち去った後、被害者が鍵をなくしたと思い込んで車内などで鍵を探していたところ、後続車に追突されて死傷結果が発生したというケース』

で最高裁判所は因果関係を認めていること

【理由】 被害車両を停車させた被告人車両が走り去ってから7.8分後まで被害者が現場に停車を続けたという他人の行動等が介在して、後続車が追突する交通事故が発生した場合であっても 、上記行動等が被告人の行為及びこれと密接に関連してなされた一連の暴行等に誘発されたものであったなどの事情の下においては、上記交通事故により生じた死傷との間に因果関係があるという判断がなされた

 

★注目点

検察官はこの最高裁の判断を踏まえて

4回の妨害運転と密接に関連してなされた

・被害車両の停止

・胸ぐらを掴む暴行

・追突

に誘発された死傷結果だから因果関係ありと主張しています

 

 

<弁護側の主張>

妨害運転行為と死傷結果との間に因果関係があるかどうかは「妨害運転行為による危険性が死傷結果へと現実化したかどうか」で判断すべき

 

妨害運転で死傷が生じたわけではなく、直前停止+暴行という妨害運転後の別な行為の危険性が現実化したとみるべき

 

それにも拘らず死傷の結果との因果関係を認めると法の抜け穴を許すことになる

 

因果関係なし

 

<裁判所の判断>

ほぼ検察側の主張と同じ認定

平成16年最高裁の判断に完全に乗ったような判断

 

<問題点(私見)>

因果関係は認められないと解すべき

 

平成16年最高裁判決の事案で、被告人が行ったのは、パッシング,ウィンカー点滅、幅寄せ,窓から右手を出す,そして前方に進入しての減速というある意味石橋被告人のあおり運転よりも酷いものです

 

この事案で、裁判所が罪となるべき事実としたのは、追突の可能性の高い高速道で停車させた行為です
そして、停車行為と死傷結果との因果関係を検討しています

決して、それ以前のあおり運転との因果関係を肯定した事案ではありません

 

そして、今回の事件の本質も、高速道路で無理矢理停車させたことと、その後の暴行です

平成16年最高裁判決と同様に、停車と死傷結果の因果関係であれば

まさに高速道路で停車させた行為の危険性が現実化しているのですから因果関係も認められるでしょう

 

 

しかし、今回の判決は、この本質部分を犯罪行為とせずに

危険運転致死傷罪の要件を満たす直前のあおり運転を犯罪行為(実行行為)にこじつけています

 

そして、事件の本質部分である直前停止と暴行を因果関係の一部に組み込んで

死傷結果の直接の原因論を曖昧にしてもいます

 

あおり運転の危険性が現実化するというのは

あおり運転車両と被害者車両の接触や、衝突を避けるために被害車両が他車や側壁などに衝突する場合が典型です

 

後続車の追突はあおり運転の危険性の現実化と本当にいえるでしょうか

 

「一貫した意思に基づく行為」
「密接関連する行為によって結果を誘発」
「(妨害運転からの流れが)不自然・不相当ではない」

 

という要件を具備していれば、

死傷の直接の原因ではないあおり運転と死亡結果に因果関係ありと認定できることになると

ともかくどこかの時点であおり運転をしていれば、

その後の道路上でのトラブルによる死傷結果には全て危険運転致死傷罪が成立するということになりかねません

 

今年実際に起きた交通トラブルとして

道路上でロケット花火などを他車に向けて発射した事案がありました

 

 

上記の判断枠組みなら

・被害車両を止めるために、あおり運転をした後に、幅寄せなどをせずに、被害者車両に向けてロケット花火を発射して被害車両内の人が火傷をしたような場合
・花火がタイヤに当たってパンクして停車してしまったので、車から降りてタイヤを見に行ったら轢かれたような場合

のいずれも

 

車を止めるという一貫した意思に基づいて

あおり運転に続いて行われた密接関連する行為が原因で生じた

不自然・不相当ではないトラブルなので

あおり運転との因果関係が認められてしまうかもしれません

 

さらに進めると

今回のケースで、トラックが追突したのではなく

石橋被告人が被害者夫を引きずり出した際に
被害者夫がバランスを崩して路上に頭部をぶつけて亡くなったという場合も、

傷害致死ではなく、危険運転致死傷になりかねません。

 

裁判所の判断枠組みだと、被害車両後部座席での暴行も、一貫した意思に基づく密接関連行為とのことなので

あおり運転と因果関係のある死傷結果となるはずです

 

 

国民に刑罰を科す刑事法

刑事法では、その法律に規定された行為を犯した場合だけ処罰されます

裏を返すと、法律に規定のない行為は、刑罰を科せられません

 

刑罰が国によって恣意的に課せられないように
法律が、刑罰を科せられる場合をめちゃくちゃ限定しているのです(罪刑法定主義)

 

危険運転致死傷罪はただでさえ曖昧な条文なので、法律解釈がよく問題になります

 

法律では「直前侵入行為」と「著しい接近」が妨害運転だと規定しています

 

ロケット花火を飛ばすことはこのいずれにも該当しません

運転者を引きずり出す行為もいずれにも該当しません

 

そして

高速道路での路上停止を強いる行為も、いずれにも該当しません

 

しかし、これらの非該当行為の直前に

たまたまあおり運転がなされていたら

 

「一貫した意思に基づく行為」
「密接関連する行為によって結果を誘発」
「(妨害運転からの流れが)不自然・不相当ではない」

というロジックを用いて

これらの非該当行為をも

危険運転致死傷罪で処罰できることになってしまいます

 

法律が定めた犯罪の枠を

勝手に拡大していることにはならないでしょうか

 

今後の法律改正は必要かもしれません

 

ただ、改正がなされていない現在の法律をあてはめるのであれば

やはり、今回のあおり運転と、致傷結果の因果関係を認めるのは

難しいのではないかと思います

 

 

(量刑判断(抜粋))

 

●被告人に不利な情状
生命身体に対する危険性が極めて高い犯行

強固な犯意に基づく執拗な犯行 遺族の無念さ、悲しみは深く厳罰を求めている

身勝手かつ自己中心的な動機から短絡的に犯行に及んでおり酌むべき余地はない

非難を受けたからといって本件犯行に及ぶのは常軌を逸している

本件危険運転致死傷は、複数人が死傷した同事案の中でも重い部類に属する

(第1,2,4事件も身勝手、自己中心的、強い非難)

3カ月半に4件も起こしている

 

●有利な情状

事実を認め、二度と運転しないなどと反省の弁があるが

真摯に反省しているとは評価できない

対人対物無制限の保険で第3事件の被害者側に相当額の損害賠償が見込まれることを考慮しても

懲役18年

 

★問題点

なにゆえ18年という判断なのかの理由が判決に明示されていない

「複数人が死傷した同事案の中でも重い部類に属する」という表現は

同種事案の量刑傾向を参考にしたという趣旨と考えられますが

今回の特殊事情(被告人車両自体で死傷結果を生じさせていない、後続車の過失運転行為が直接の原因等)を踏まえて

検察官が重すぎる理由を説明すべきだったのではないかと思います

 

 

(控訴するかどうか問題)

 

<検察庁>

「主張が認められた」というコメントからすると特に法解釈を含めて問題視はしていない可能性がある
しかも刑も求刑の7割強の量刑なので控訴検討対象には基本的にならない

 

<弁護人>

本人が控訴したいというなら控訴するというスタンスと思われる

法律解釈がおかしいから控訴、というのは被告人の利益には必ずしもならないのではないかと思われます

 

なぜなら、横浜地裁の因果関係論に問題があると控訴をして、

仮に東京高裁が因果関係を否定して危険運転致死傷が成立しないと判断しても、

そのあとには監禁致死傷が控えています

 

監禁致死傷の成立を争うのは解釈的には厳しいと思われるし

量刑についても、危険運転致死傷と監禁致死傷刑の上限は変わらないので、

仮に危険運転致死傷が否定されても、監禁致死傷となれば量刑には影響しないのではないか

(法定刑はいずれも上限20年、本件の場合30年まで上がる、裁判員の量刑判断を高裁は基本的には否定しない)

 

そうなると、法律論の争いに付き合って控訴したけど、時間だけがいたずらにかかったということになってしまう

 

<私見>

石橋被告人が、刑を少しでも軽くするべく控訴するという判断をしない限り

検察官も弁護人も積極的に控訴することはしないのではないか

 

(あとがき)

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

僕自身、危険運転致死の裁判員裁判を3件やっています

そのうち2件が犯罪の要件を争い

内1件は無罪判決をもらっています

 

それゆえ、危険運転致死の問題点には、他の弁護士よりも敏感になってしまっているのかもしれません

 

あおり運転罪の創設は必要でしょう

そして

妨害運転型危険運転致死傷の類型の再考

速度要件(重大な交通の危険を生じさせる速度)の要否

は再検討が必要なのかもしれません

 

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