【日本ボクシング連盟の不正とパワハラ】刑事事件や賠償問題にも発展?!

コラム

またしても人気スポーツに関する不正告発がありました

今回は、日本ボクシング連盟です

 

しかもその告発の形態が

連盟幹部や元選手ら合計『333人』が

山根会長や連盟の不正に関する告発状を

スポーツ庁や日本オリンピック委員会(JOC)に提出するという前代未聞のもの

 

告発の概要は以下のようなものです

1 アスリート助成金の不正流用

2 ボクシンググローブの販売独占とそのリベートを日本ボクシング連盟の山根会長が不正に取得している

3 ボクシングの審判員に対するパワハラ

4 ボクシングの不正審判

 

これらはいずれも『疑惑』を前提にした告発ですので真実かどうかはまだわかりません

 

それにこれだけの人数が集まって

現役会長を告発するという流れは

やはり権力闘争の側面もあるのではないかと思いますので

告発の内容については慎重に精査検討しなければならないと思います

 

とはいえ、火のない所に煙は立たぬともいいますので

一応これらの不正があった場合に、どのような民事上・刑事上の責任が生じるのか簡単にご説明させていただきたいと思います

 

 

【1 アスリート助成金の不正流用】

アスリート助成金とは

政府からの出資と民間の寄付により成り立つスポーツ振興基金を運用して、日本スポーツ振興センターが交付している助成金の一つです

助成の目的は、

優秀な選手に対して助成を行うことで、優秀な選手を称えるとともに、競技活動に専念した選手生活の継続を奨励し、競技水準の向上を図ることを目的としている

つまり、金銭的な余裕をもってもらって

トレーニング等に集中してもらいたい

結果につなげてもらいたい

という目的で交付される金銭です

 

そして助成金の金額は

トップアスリート

=『次回の』オリンピックで活躍が期待される強化指定選手

には240万円

 

ユースアスリート

=『次々回の』オリンピックで活躍が期待される強化選手

には90万円

です

 

多いのか少ないのかは何ともいえませんが

(オリンピックを目指すくらいのアスリートなのでもう少し助成しても・・・)

このような基準で助成がなされることになります

 

そして、

受給する資格のない人による不正受給や、

助成金の使途等に関する不正報告

助成金の目的外使用の場合は交付決定の取り消しとなり

助成金の返還を求めることになります

 

さらに不正報告や目的外使用の場合は約1割の加算金の納付も義務付けられる

(独立行政法人日本スポーツ振興センタースポーツ振興基金助成金交付要綱)

 

今回の場合、

報道ベースですと

リオ五輪ライト級代表の成松大介選手が交付を受けた助成金240万円を

山根会長の指示で、他の選手に分配したとのことです

 

成松選手には受給の資格があるでしょうから不正受給ではないと思いますが

もし初めから他の選手に分配する予定だったのに、

それを秘して助成金の申請をしていた場合は詐欺罪(刑法246条 10年以下の懲役)に該当する可能性があります

 

一方、助成金取得後の目的外使用

そして当然他の選手への分配は助成金の使途として報告できないでしょうから

虚偽報告も行っているものと思われますので不正報告

については助成の取消対象となりますので

成松選手は、助成金の返還及び加算金の納付を求められる可能性があります

 

一方、分配を指示した山根会長や日本ボクシング連盟ですが

分配を受ける他の選手への配慮からの提案であれば、刑法犯にはならないと思われます

しかしながら、

選手への指示は当然パワハラになり得るでしょうし

分配を強く迫っていれば恐喝罪(249条 10年以下の懲役)などにもなり得るでしょう

さらにもし他の選手への分配を装って

山根会長の懐に助成金が入るようなかたちにしていたのであれば

山根会長や協会関係者にも詐欺罪等の犯罪が成立する可能性が出てきます

いずれ事実関係の解明が待たれます

 

【2 ボクシンググローブの販売独占とそのリベートを日本ボクシング連盟の山根会長が不正に取得している】

報道ベースですが

告発状によりますと

日本ボクシング連盟は、昨年指摘されるまでの長期にわたり

兵庫県内の販売店1店だけにボクシンググローブの検定品を独占販売させていたとのことです

その実態として

関係者は「付き合いの長い県内のスポーツ店からも買えない状況だった」

「その店の住所地には喫茶店があり、スポーツ店はない」

状況だったとのことです

そしてボクシンググローブの販売価格は市場価格より2~3割高額だったとのことで

しかも、代金の振込先口座が山根会長の孫の名義と山根会長に近い関西地方の連盟の元理事名義の口座だったとのことです

 

この流れについて、告発状は

販売店を「トンネル会社」とした上で「(山根会長が)中抜きした利益を不正に取得している疑いが極めて濃厚」と指摘しています

 

このような日本ボクシング連盟(というか山根会長)の行為

これに対応する兵庫県内の販売店の行為は

リベートの支払を条件に、他のボクシンググローブ販売企業を排除する行為であり

到底正当な競争の結果での市場独占ではありません

そして、このような販売独占は

価格競争や品質の向上が行われなくなる結果を招来するため

典型的な独占禁止法違反(私的独占・独占禁止法第2条5項、3条)に該当する可能性が出てきます

第二条
5 この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
第三条 事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
そして、私的独占を行った事業者(今回はボクシンググローブ販売店)に対しては罰則もあります
第八十九条 次の各号のいずれかに該当するものは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
一 第三条の規定に違反して私的独占又は不当な取引制限をした者

 

さらに山根会長らと販売業者には

詐欺罪と背任罪(247条 5年以下の懲役または50万円以下の罰金)

も成立する可能性があります。(両社は共犯となるでしょう)

 

山根会長らにリベートを支払うために

市場価格より2~3割高額がボクシンググローブを販売していた(選手はここから買わざるを得ない)

のであれば

市場価格よりも2~3割高い価格を適正価格であると欺いて、買主を誤信させて、本来、選手が支払わなくても良い2~3割増額分の代金を騙し取った(詐取した)ということになり得ますので、詐欺罪に該当する可能性があります

(少々厳しいかもしれませんが)

 

山根会長は自分の利益を獲得する目的で

その地位を不正に利用してリベートを獲得するシステムを作ったのですから

日本ボクシング連盟に財産的な損害が生じている状況であれば

任務違背行為(背任)にもなり得ます

(独占販売に対するライセンス料のような連盟の金銭収入が減るような事情がある場合に限られると思います)

 

また、リベートを支払うよう強く迫っていたといった事情があれば恐喝罪にもなり得ます

 

したがって、このボクシンググローブを巡る不正な販売独占についても

事実関係の解明が求められます

 

【3 ボクシングの審判員に対するパワハラ】

レスリング業界でのパワハラも取り沙汰されたばかりですが

この事実関係が明らかになれば

パワハラ被害に遭った審判員から、慰謝料請求等の損害賠償請求を受ける可能性はあります。

 

【4 ボクシングの不正審判】

不正審判による賠償請求という枠組みはあまり聞いたことがありませんが

当然、パワハラ同様に、不正審判により不利益を受けた選手から協会もしくは山根会長への

慰謝料請求はあり得るだろうと思います。

 

 

かなり長くなってしまいましたが

今回の告発の内容は非常に多くの法律問題をはらんでいます

 

事実関係の解明が適切に行われ

もし不正が真実であれば、不正を行った人物への厳正な処分を行っていくことが

日本ボクシング協会に求められていると思います

 

そうしなければ

ボクシングの人気

選手らの技術向上

さらにはオリンピックの集客など

色々な側面への大きな悪影響を残してしまうことになると思われます

 

真相解明がなされることを期待します。

 

 

関連記事

株主代表訴訟の構造や裁判費用、弁護士費用について

株主代表訴訟の構造や裁判費用、弁護士費用について

続きを見る

回転寿司テロのリスクを弁護士が解説!

回転寿司テロのリスクを弁護士が解説!

続きを見る

弁護士が教える反対尋問のポイント

弁護士が教える反対尋問のポイント

続きを見る