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※ 平成30年12月3日の初公判の冒頭陳述を踏まえて、加筆しました。(加筆部分の字を大きくしています)

平成29年6月に東名高速で発生した東名夫婦死亡事故

事故の概要としては、石橋被告人が、あおり運転で追い越し車線に被害者夫婦を無理やり停止させたところに

後続車のトラックが夫婦に追突してが死亡したという事故でした

 

 

この件に関して、当初横浜地検は危険運転致死傷罪で起訴をしました。

しかし、この起訴には法律的には問題がありました。

 

横浜地裁も、この件に危険運転致死傷罪が成立しないのではないかとの心証を抱いたとのことで

横浜地裁の裁判官が、横浜地検に対して、別罪での起訴を勧め

今回、監禁致死傷罪での「予備的」起訴となったとのことです。

https://www.sankei.com/affairs/news/180907/afr1809070016-n1.html

なお、「予備的」起訴というのは

「とりあえず(上司決済まで経て起訴をした)危険運転致死傷罪については起訴罪名として残しておくけど

もしも危険運転致死傷罪が成立しないと判断した場合には、

次は監禁致死傷罪で有罪が成立するか検討してちょうだい」

という2次的(予備的)な審理を求める起訴になります

 

では、なぜ今回監禁致死傷罪での予備的基礎になったのか

高速道路で危険なあおり運転してるでしょ、と思われる方も多いと思うので

法律的な問題点を指摘させていただき、監禁致死傷罪が成立する理由について説明させていただきます。

 

【過失運転致傷罪】

まず当初警察が逮捕に踏み切ったのは

過失運転致死傷罪でした(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)

第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

 

自動車を無理矢理停車させる「運転行為」が原因となって
人を死傷させたという枠で考えると逮

確かに、逮捕被疑事実の過失運転致死傷がしっくりくるかもしれませんが

 

そもそも、何を過失と見るのかという問題もありますし

7年以下の刑にしかならないという刑の軽さの問題もあります。

 

【危険運転致死傷罪】

では横浜地検が起訴をした危険運転致死傷罪

は成立しないか

 

条文が多いのですが

該当するとすれば、自動車運転処罰法2条第4号の妨害運転致死傷罪

 

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)

二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。 (※ 1年~20年になります)

 四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

 

※実際に横浜地検が起訴しているので、ここは少し厚めにご説明します。

 

妨害運転での危険運転致死傷罪で有罪にするためには

 

① 通行妨害目的

② 直前侵入・著しく接近(妨害運転)

③ 重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

 

という条文に書かれている要件に加え

 

④ ②③という危険運転によって死傷の結果が生じた、という因果関係の存在

 

が必要です

 

危険なことを高速道路でやってるんだから危険運転でしょ!

という簡単な問題ではありません

 

石橋被告人が

① 通行妨害目的で

② 直前侵入・著しく接近させたこと

は間違いありません

 

では

③ 重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

をしていたといえるのでしょうか?

【検察官冒頭陳述】

後続のトラックの追突時点で確かに石橋被告人の自動車は停車していました

このことには争いはありません

この事実関係を前提に、検察官は、

高速道路上で停車させている場合

つまり「時速0キロメートル」でも

③ 重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

したことにあたるのだと主張しています

確かに、高速道路で無理矢理停車せる行為は危険です

しかしながら、あくまで

直前侵入などあおり運転を行い、

③「かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

であることが条文上の要件です

つまり、法律は

単にあおり運転や直前侵入に起因して事故が起きた場合を広く罰しているのではなく

あおり運転をしたことに加えて

重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転

したことがマストだと、

誤解を恐れずに簡単にいうならば

「速度が出ている=車が走行していることが大前提」

だと規定しているのです

これは「かつ」という言葉が入っていることからも明らかです

それにも拘らず

検察官が主張しているように

「自動車が完全停車している=時速0キロメートル」

の場合も

重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転

したことに含めてしまうと

この要件いらなくない?

完全無視だよね実際

ということになります。

今後の法律改正の可能性はあると思いますが

原稿の法律を踏まえると、やや厳しいように思います。

 

 

次に、それでは速度を出して走行していた直前のあおり運転行為を

「直前侵入などの妨害運転行為」

と捉えて、危険運転致死傷罪の成立を検討するとどうでしょうか

(「直前の危険運転と死亡との因果関係は否定しがたいと判断した」という表現がされていたように思います)

 

石橋被告人は、確かに100キロオーバーで走行して

直前侵入等の妨害運転を繰り返したわけですから、その運転に注目すれば

③ 重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

という要件を満たします。

(なお、法制審議会や過去の判例では、20~30キロ程度で走行すれば
「重大な交通の危険を生じさせる速度」に該当するとされています)
しかし、

「直前侵入などの妨害運転」

が犯罪行為であるとすると

今回、それが原因で死亡したの?
④因果関係があるの?
という問題に直面します
因果関係というのは
簡単にいいますと
その行為から直接死亡結果が発生したの?という視点です
すなわち今回の事件の場合
● 直前侵入等の妨害運転 ⇒ 衝突等の事故を起こす ⇒ 死亡
という流れではなく
● 直前侵入等の妨害運転 ⇒ 車を停車させて運転席などに石橋被告人が話しに行く ⇒ 他の自動車が追突するという偶然の事態発生 ⇒ 死亡
という特殊な因果の流れを経ています
そのため、確かに後続車の衝突の直前に妨害運転があったとしても
「直前侵入などの危険な妨害運転そのものから死亡という結果が生じた」
「妨害運転自体が持つ危険性が現実化した」
とはいえず

④ ②③という危険運転によって死傷の結果が生じた、という因果関係の存在があるのか

という要件を満たさないのではないか

 

もう少し噛み砕くと
「妨害運転によって衝突事故が生じたのではなく
追い越し車線に停車させた行為によって衝突事故が生じたのではないか」
という強い疑問が生じることになります

 

この因果関係を広げ過ぎてしまうと

例えば、高速道路で自動車を停車させた後に

被害者の車に雷が落ちて、被害者が死亡したという特殊な場合でも

あおり運転で死亡した

ということになってしまいかねません

 

※ 法律論なのでやっかいですが

なおここにいう因果関係は

「社会通念上、犯罪行為から死亡という結果が生じるのが相当」

といえる関係でなければなりません。(相当因果関係、いわゆる「あれなければこれなし」という単純な条件関係では足りません)

 

 

横浜地検は「直前の危険運転と死亡との因果関係は否定しがたいと判断した」とのことですが

 

やはり、「妨害運転で死亡した」とはいえないと考えるのが自然の感覚だと思います

したがって、危険運転致死傷罪も難しいと考えざるを得ない

恐らく横浜地裁も同じ問題意識から、検察官に、別罪での起訴を促したのだと思います

 

【殺人罪】

感情的には

殺人罪(刑法199条)

もあり得るかもしれません

 

第一九九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

 

しかしながら

・どの行為が殺人行為なのか特定が難しい

 (高速の追い越し車線に停車させると殺人罪の着手なのか)

・殺人罪の故意(未必の故意)が認められるのか

という大きなハードルがあります

 

【監禁致死傷】

そこで、監禁致死傷罪が検討されたのです

事故直後から、監禁致死傷罪の該当可能性を指摘されている学者の方がいらっしゃって

非常に納得した記憶があります

 

監禁罪(刑法220条)

第二二〇条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

監禁致死傷罪(221条)

第二二一条 前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

(傷害致死が3年以上の有期懲役なので、監禁致死罪も

 3年~20年の有期懲役)

 

まず「監禁」とは

一定の場所(閉鎖空間である必要はない)からの移動を不可能か著しく困難にすること

です

 

今回の場合、高速道路上ですから

自動車の進行方向は限られています。

しかも追い越し車線上です

そして、被疑者はその進行方向を封鎖している。

 

報道によると、隣のレーンには10秒に1台の頻度で自動車が高速度で通り過ぎていたとのことですので

当然、被害者夫婦は歩いて逃げること

ましてや子2人を連れて逃げることなど

著しく困難でしょう

 

つまり

高速道路上で停車させ動けなくさせるという監禁行為があって

その監禁行為がきっかけで

他車が追突し死亡に至っている

のですから

監禁致死罪は大いにあり得ると思います。

 

なお、停車中の自動車のトランク内に監禁された被害者が

他車の追突により死亡した場合に

監禁致傷を認めた事案(最高裁決定平成18.3.27)

もあります。

この判例では

被害者の死亡原因が直接的には追突事故を起こした第三者の甚だしい過失行為にあるとしても,

道路上で停車中の普通乗用自動車後部のトランク内に被害者を監禁した本件監禁行為と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができる。」

との判断がなされています

 

横浜地裁が起訴罪名の変更を促していること

弁護人も監禁致死傷罪の成立を認める方針であること

からすれば、恐らくこの監禁致死傷罪での判決になるものと思います。

 

【弁護人冒頭陳述】

なお弁護人は

①自動車の停車時間が2分程度であったこと

②トラックに衝突された時点では石橋被告人は自車に戻ろうとしていたと主張していること

などを根拠に

監禁の故意はなかった(監禁している認識はなかった)

との主張をし、監禁致死傷罪についても争う姿勢のようです。

(そもそも「監禁」なのか、という点を争っているかは不明です)

主張としてはあり得るかなと思いますが

①トラックの衝突という偶然の事情が生じたのが2分後というだけで、2分しか留め置くつもりがなかったというわけではないであろうこと

②当時のやりとりはわかりませんが、早急に石橋被告人の車を発進させない限りは

 高速道路上での危険な監禁状態が継続していることは石橋被告人も理解しているはず

と考えられますので

厳しい主張ではないかと思います。

 

監禁致死傷罪は3年~20年の有期懲役という重い罪で

危険運転致死傷罪の1年~20年の有期懲役という頚よりも重いものになります。

 

本件は裁判員裁判になります

死亡被害者が2名であることを考えますと、かなり重い判決になるのではないかと思われます

 

年内に行われる予定の公判審理の結果に注目していきたいと思います。

 

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