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法律相談

私は、10年前に家賃7万円、敷金3ヵ月分でアパートに入居しました。今回、新しい家に引っ越しが決まりましたので、家主にアパートを明け渡し、敷金の返還を要求したところ、「修繕費用がかかったからその分を敷金から差し引く。あなたは10年間住んでいて、修理する箇所が多数あったから、修理費用がかさんで、敷金は全額修理費用にあてる。」と言われました。確かに、賃貸借契約時に取り交わした契約書には「賃借人の故意過失を問わず、発生した毀損・損耗の修繕費用を賃借人に賠償させる」旨の特約条項があります。この場合、敷金は返してもらえないのでしょうか?

弁護士からの回答

弁護士からの回答

契約書に上記のような特約条項があったとしても、文言どおり、すべての修繕費用を敷金から控除されるとは限りません。賃借物の通常の使用に必然的に伴う損耗、汚損等、時間の経過によって生じる自然的な劣化、損耗等については、特約があっても原則として敷金から控除できないとされています。  しかし、通常の使用に必然的に伴う損耗、汚損等ではなく、賃借人の故意・過失によるもの、その他通常の使用を超えるような使用による汚損は、原則としてその修繕費用を敷金から控除できるとされています。では、以下では、実際に具体例をあげてみてみましょう。

解説

1 自然な色落ちのクロス(壁紙)の交換費用

 自然な色落ちは時間の経過によって生じる自然な損耗ですので、その交換費用は、特約があっても敷金から控除できないのが原則です。

2 結露によりカビが発生したクロス(壁紙)の交換費用

 結露の原因は、主に建物の構造上の問題に起因することが多く、結露によるカビの発生は、賃借物の通常の使用に必然的に伴う損耗といえます。したがって、原則として特約があっても敷金から控除されません。
 ただし、結露が発生しているにもかかわらず、漫然と放置したことにより損害が拡大してしまったというように賃借人側の責めに帰すべき事情がある場合には、善良な管理者の注意義務違反を問われ、交換費用につき一定程度の負担をしなければならない場合もあります。

3 賃借人が吸うたばこのヤニで汚れたクロス(壁紙)の交換費用

 一般的にたばこを吸うことは個人の自由です。また、賃貸人は賃借部屋を個人の居住空間として提供している以上、借家で喫煙することは特約なき限り、当然許容しているというべきでしょう。ですから、たばこのヤニで多少クロスが汚れてしまったとしても、それは通常の使用に必然的に伴う汚損と言えます。よって、賃貸人は、原則、クロスの交換費用を敷金から控除することはできません。
 ただし、クロスの汚れが通常の喫煙による汚れとは到底いえない程度で、かつ、とても住居の使用に耐えられない程度に達している場合は、もはや通常の使用に必然的に伴う損耗、汚損とはいえないため、例外的に賃借人が責任を負うと考えられます。

4 壁に大きな本棚を固定する為に釘穴を開けたことによる下地ボードの交換費用

 下地ボードの交換を要するほどの穴を開けることは、通常の使用といえませんので、その修理費用は、原則、敷金から控除されると考えられます。

5 賃借人の子供が落書きしたクロス(壁紙)の交換費用

 賃借人の子供の故意・過失は、賃貸人自身の故意・過失と同視されます。よって、子供が不注意で(もしくはわざと)落書きしてクロスを汚してしまった場合は、賃貸人自身の責任を問われてしまいます。この場合のクロスの交換費用は、原則、敷金から差し引かれることになります。

6 ハウスクリーニング代金

(1)特約がない場合

 ハウスクリーニングは、次の入居者を確保するためになされるものであり、主に、賃貸人側の事情によるものです。よって、原則、この費用は、賃貸人が負担すべきであり、敷金から差し引くことはできません。

(2)特約がある場合

 契約書にハウスクリーニング代金は賃借人が負担する旨の特約が記載されていても、賃借人が無条件にこれに従わなければならないものではありません。ハウスクリーニングに係る費用は、本来賃貸人が負担すべきものだからです。特約の有効性については、特約内容の必要性や合理性、契約時における賃借人に対する説明の程度等の事情を総合的勘案して判断すべきとされています。

弁護士に依頼した場合

敷金返還請求・交渉

 まずは、貸し主に敷金返還請求を内容証明郵便で行います。交渉の中で、修繕費用の内訳・内容なども確認します。法律の専門家が交渉することにより、問題がスムーズに解決する場合もたくさんあります。

当事務所における解決例

(1)2年間しか居住していないアパートから引っ越す際に敷金の返還が一切なされなかったケースで、交渉の結果、敷金の返還を受けることができました。

 修繕内容の開示を求めたところ、入居当初から破損していた部分の修繕費用まで敷金から引かれていました。自身で汚損した箇所と、自然損耗・入居前の損耗箇所とを区別し、自身の汚損箇所のみ敷金から差し引いて返金を受けることができました。

(2)オフィス移転の際、保証金の返還を受けることができました。

 15年間入居していたオフィスを移転する際、保証金だけでは修繕費用をまかなえないから追加で修繕費用を支払うよう貸し主から請求を受けていました。修繕費用の内訳を確認すると、蛍光管の交換費用など自然損耗の修繕費用まで含まれていたので、借り主に支払義務がないことを主張し、保証金の一部返還が受けられました。

Q&A

Q1 敷金とは何ですか?

A 敷金とは、賃貸借契約において賃借人の未払賃料債務などを担保する目的で、賃借人から賃貸人に対して交付される金銭をいいます。不動産明渡しの際に賃借人に債務不履行があればその額が当然に減額され、債務不履行がなければその全額が賃借人に返還されます。この金額は、当事者間の契約によって定まり、特に基準はないですが、賃料月額の数倍の金額とすることが多いようです。

Q2 敷金の返還を請求できる時期はいつからですか?

A 判例によれば、賃借人が実際に建物を明渡した後に請求できるとしています。ですから、建物を明け渡す代わりに、敷金を全額返金せよと賃借人が賃貸人に要求することはできません。あくまでも、賃借人の明渡し義務は、賃貸人の敷金を返還する義務より先なのです。

Q3 一年前、どうしてもお金がなくて家賃が支払えず大家さんに相談したところ、「お金がある時に支払ってくれればいい」と言われました。そのまま現在まで未払分の支払いができていません。退去するときに敷金から差し引いてもらうことはできるのでしょうか?

A 契約が終了し、借り主が実際に家屋を明渡した時に、借り主が貸し主に対し負担する債務を敷金から差し引くことができます。ここにいう債務は、賃貸借契約に関して負う一切の債務を指しますので、通常の使用に基づくものとは言えない程度の汚れや損耗の原状回復費用のほか、未払賃料も含まれます。