元従業員によるSNS拡散の炎上リスク

コラム

アルバイトの従業員や元従業員などにより、ツイッターやYou Tubeで勤務先会社への嫌がらせの情報が拡散され、飲食店などが「炎上」してしまうケースが少なくありません。

 

従業員によるSNSでの情報拡散によって飲食店が損害を被った場合、誰がどのような責任を負うのでしょうか?

 

この記事では元従業員や従業員によるSNS拡散のリスクや炎上に伴う法律問題について、弁護士が解説します。

 

動画でも解説していますので、よければぜひご確認ください。

 

事案の概要

2022年7月24日、仙台市内の大阪王将の元従業員が、店舗への「リベンジ」を予告した上で「ナメクジ大量発生」などのツイートをしました。

元従業員と大阪王将の店舗との間では労働トラブルがあったようです。

元従業員は店舗内に「ゴキブリやハエ、ウジ虫もいる」「従業員が猫を連れ込んでいる」などのツイートもしていました。

この一連のツイートが炎上してしまい、大阪王将の株価は暴落してお店側も調査や謝罪などの対応に追われました。

 

また保健所が立ち入る事態となり、調査も行われました。ただし7月25日、保健所は「ナメクジや猫などの事情は見当たらない」と結論づけています。

一方で、当該仙台市内の大阪王将は清掃や消毒が不十分で、食品衛生責任者が不在だったことなどが明らかになり、保健所から指導が行われました。

 

さらには大阪王将の本部が謝罪する事態にも発展しました。

 

今後のトラブルの展開や法的問題点

以上のような元従業員によるSNS炎上事件を受けて、今後、フランチャイザーである本部と仙台の加盟店、元従業員との間ではどのような法的問題が生じる可能性があるのでしょうか?

 

【登場人物や会社】

本件で登場する人物や会社は主に以下の3者です。

  • フランチャイザー(大阪王将の本部)
  • 加盟店(仙台の大阪王将のお店)
  • 元従業員

 

本部と加盟店の関係

本部と加盟店の関係については、フランチャイズ契約の内容によって変わってきます。

本件では加盟店が食品衛生管理業者をおかずに店舗を運営していたり、清掃や消毒が不十分であったりして保健所から指導を受けています。こうした状態がフランチャイズ契約違反であれば、加盟店は本部からフランチャイズ契約を解除される可能性もあります。

解除までされなくても、厳重注意を始めとして何らかの処分を受ける可能性が高いでしょう。

 

元従業員と加盟店の関係

本件でもっとも大きな問題となるのが元従業員と加盟店の関係です。

加盟店が元従業員へ損害賠償請求する

今回、加盟店は元従業員の嫌がらせのツイートにより、多大な損害を被っています。

数日間はお店を閉めなければならなかったので営業損害が発生しているでしょうし、対応のための人件費や清掃の費用なども発生しているでしょう。

こうした損害について、加盟店は元従業員へ損害賠償請求ができます。

賠償金の金額は、個人で払うには厳しい金額になる可能性があると考えられます。

 

本部による損害賠償請求の可能性

本件ツイートによって株価が暴落しているので、本部が元従業員へ損害賠償請求する可能性があります。株価暴落による損害が認められれば億単位の損害が発生する可能性もあります。

 

加盟店が元従業員を刑事告訴する

本件で元従業員には大阪王将の店舗に対する名誉毀損や信用毀損、偽計業務妨害などの犯罪が成立する可能性があります。

  • 名誉毀損…公然と事実の摘示によって人の社会的評価を低下させる犯罪
  • 信用毀損…対象者の社会的信用を低下させる犯罪
  • 偽計業務妨害…偽計によって対象者の業務を妨害したときに成立する犯罪

 

公益目的は認められない可能性が高い

店舗による名誉毀損の主張に対し、元従業員としては「公益目的があった」と反論する可能性があります。

ただ元従業員は本件のツイートについて、自ら「リベンジ」目的と言っており、公益目的ではなく嫌がらせ目的であることが明らかでしょう。公益目的という反論は認められないと考えられます。

 

以上より、加盟店側は元従業員を刑事告訴する可能性が高いといえます。

 

労働問題

加盟店と元従業員との間に未払い残業代などの労働問題がある場合、今後表面化してくる可能性があります。

具体的には元従業員が加盟店へ未払い残業代の請求を行ったり、パワハラ被害の慰謝料を請求したりする可能性があるでしょう。

 

食中毒になった客がいる場合

本件において実際に大阪王将で食中毒になった客がいた場合、誰にどのような請求ができるのでしょうか?

この場合、客は仙台の大阪王将加盟店に対して損害賠償請求ができます。

それだけではなく、場合によってはフランチャイザーである大阪王将本部へ共同不法行為や使用者責任を理由に損害賠償請求できる可能性もあります。

 

本件から得られる教訓

飲食店などではたらく労働者の立場としては、嫌がらせ目的などのために軽い気持ちであってもSNSで勤務先(元勤務先)の悪口を投稿してはなりません。予想を遥かに上回る額の損害賠償請求をされたり刑事告訴されたりするリスクが発生します。

店側としては、衛生管理などの法律上の規定はきちんと守ること、従業員との関係規律をしっかり行うことが重要といえるでしょう。

またHACCPを導入するなどして衛生管理をきちんと行っておけば、万が一の際にも衛生管理をきちんと整えていることを世間にアピールしやすくなります。

さらに店舗で食中毒業者発生した可能性がある場合、早急に対応して混乱の拡大を防ぎましょう。

 

動画でも本件の内容を投稿しています。よければぜひご覧ください。

動画へのリンク

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