一般道を時速194キロで走っても「危険運転致死罪」にならない理由

コラム

 

時速194キロで一般道暴走!でも危険運転致死にはならない!【弁護士解説】

 

 

 

一般道を時速200キロ近い高スピードで走ると、誰が考えても高い危険を発生させます。

そんな高スピードで突っ込んできた車が交通事故で人を死傷させたら「危険運転致死傷罪」が成立すべきと考える方も多いでしょう。

しかし道路状況にもよりますが、現状の法律では高スピードであっても「過失運転致死傷罪」しか成立しない可能性があります。

 

この記事では一般道を常識はずれの高スピードで走行しても危険運転致死傷罪が成立しにくい理由について、実際に起こった事件を例に弁護士が解説します。

 

危険運転致死傷罪と過失運転致死傷罪の違いについてもご説明しますので、交通事故に関心のある方はぜひ参考にしてみてください。

 

動画のリンク

 

1.事案の概要

問題となった交通事故は2021年3月、大分県にて発生しました。

当時19歳だった少年が幅約4メートルの道路(一般道)を、時速194キロの高スピードで走行してきたのです。道路の法定速度は60キロでした。少年の車はスピードを出したまま右折しようとしていた車に衝突し、相手を死亡させてしまいました。

 

少年はスピードを出した理由について「時速が何キロまで出るか試してみたかった」と話しています。

 

このような勝手な動機によって高スピードで突っ込んできて人を死傷させる行為は許されるものではありません。交通犯罪が成立します。検察は当初、「危険運賃致死傷罪」として家庭裁判所へ少年を送致しました。

 

危険運転致死傷罪は重罪で原則的に「逆送」される事件なので、少年は家庭裁判所から逆送されてきました。

 

逆送とは

逆送とは、検察官から家庭裁判所へ送られてきた少年を、反対に家庭裁判所から検察官へ送り返すことです。19歳以下の少年であっても故意の犯罪事件によって人を死亡させた場合などには原則逆送となります。逆走された少年は、検察や警察による取り調べなどを受けた上で、成人と同様に起訴が検討されることになります。

 

高スピードで危険な交通事故を起こした19歳の少年は検察官へ逆送されてきましたが、結果として検察官は「過失運転致死罪」で起訴しました。

 

過失運転致死傷罪は危険運転致死傷罪と比べて非常に軽い罪であり、刑罰が大幅に軽くなります。

 

危険運転致死傷罪

故意や故意にも匹敵するような過失による危険運転によって交通事故を起こし、人を死傷させたときに成立する犯罪。人をケガさせた場合には15年以下の懲役刑、死亡させた場合には1年以上の懲役刑が適用されます。

 

過失運転致死傷罪

過失によって交通事故を起こし、人を死傷させたときに成立する犯罪。刑罰は7年以下の懲役もしくは禁固、または100万円以下の罰金刑です。

 

検察官としては「少年は直線道路を真っすぐ走っていて走行を制御できていた。危険運転致死傷罪にならない」と判断したとのことです。

 

 

2.重大なスピード違反が過失運転致死傷罪にしかならない理由

「一般道を時速194キロメートルで走行しながらも過失運転致死傷罪しか成立しない」という判断に違和感を受ける方も多いでしょう。

なぜこれほどまでに常識はずれで重大なスピード違反でも危険運転致死傷罪が成立しないのでしょうか?

 

それは、危険運転致死傷罪の現行法の規定内容に理由があります。

 

高スピードで車を走らせて交通事故を起こし、危険運転致死傷罪が成立する場合について、自動車運転処罰法は以下のように規定しています。

 

自動車運転処罰法2条2号 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為

 

つまり高スピードで運転していた場合「進行を制御することが困難な場合」のみが危険運転致死傷罪での処罰対象となるのです。そして「進行を制御することが困難かどうか」については、道路状況に応じて自動車をコントロールできたかどうかが重要な判断要素となります。このとき、「物理的な道路の形状」については判断の対象になりますが、横断歩行者や車両の存在・それらをよけられたかどうかは考慮の対象外になります。

 

物理的な形状について

現場の道路が急カーブや急勾配な場所であれば、相当減速しないと危険といえるので「危険運転致死傷罪」が成立しやすくなります。

 

横断歩行者や他の車両について

一方、歩行者や車両の存在などの要素は「進行を制御することが困難かどうか」で考慮されないので、道路上に横断歩行者や車両がいても、危険運転致死罪かどうかに関係がないと判断されます。つまり歩行者や車両を避けられる速度かどうかは、危険運転致死傷罪の成否に基本的に無関係なのです。

 

横断歩行者や他の車両が危険運転致死傷罪と無関係なことは、法制審議会による議論でも明らかにされていますし、千葉地裁平成28年1月21日などの裁判例でも同様の判決が下されています。

 

こういった現状からすると、住宅街の直線道路で高スピードで突っ込んできた車が飛び出してきた歩行者を避けずにぶつかった場合でも、危険運転致死傷罪にあたりません。「真っ直ぐな道路を真っ直ぐに走れている」なら「制御できている」といえ、危険運転致死傷罪にならないのです。

 

こうした法律解釈の現状からすると、大分県の事件における検察官の判断も、やむを得ないものといえるでしょう。

 

3.スピード違反の運転をしてはならない

ただしだからといってスピード違反しても良いというものではありません。物理的な形状として危険な場所であれば危険運転致死傷罪が成立しますし、過失運転致死傷罪でも懲役刑などの刑罰は適用されるからです。人を傷つけてしまってからでは取り返しがつきません。

 

4.最後に

この記事の内容についてはこちらの動画で詳しくご説明していますので、よければご覧ください

 

動画のリンク

 

当事務所では交通事故に遭われた被害者の方へのサポートや危険運転致死傷罪などで刑事事件になった方の弁護に積極的に取り組んでいます。危険運転致死傷罪で無罪を勝ち取った実績もあります。お困りの場合にはお気軽にご相談ください。

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