【新潟女児殺害】警察車両3台が車を取り囲み「任意同行」求めるのは実質逮捕?

コラム

新潟女児殺害事件で、意外なところに注目が集まっています

新潟市の小学2年生の女の子が殺害された事件で、新潟県警は5月14日夜、近所に住む会社員の20代男性を死体遺棄・損壊の疑いで逮捕しました。

急展開でしたね。

逮捕された男性は14日朝、任意同行を求められ、捜査本部から事情を聴かれていた。

朝日新聞(5月14日)によれば、男性のものとみられる黒い軽自動車を、別の3台の車が取り囲み、乗っていた警察官が軽自動車を囲んで声をかけていたという。

任意同行という言葉はニュースなどでよく聞きますが、任意同行はどういう場合に許されるのか

任意同行と逮捕の違いは、などの質問を受けましたので、簡単に説明させていただきます。

 

任意同行は、大きく2つの場合に認められます。

一つ目は、被疑者の取調べなど犯罪捜査のために警察署等に出頭を求める任意同行と、職務質問の便宜のために近くの警察署などに同行を求める任意同行があります。

前者の根拠は刑事訴訟法198条、後者の根拠は警察官職務執行法2条です。

今回のケースの場合は、道の駅で被疑者を発見し、事件との関係性等についての取調べを行うために警察署への出頭を求めたのでしょうから、前者の任意同行にあたるものと思われます。

 

任意同行か実質的な逮捕なのかについて、法律論に踏み込むと非常に難しい話になってしまいますので、簡単にご説明させていただきます。

捜査の方法には大きく任意処分(任意捜査)と強制処分(強制捜査)があります。そして強制処分を行うためには、法律の手続きに従って、裁判所から令状をもらうなどの手続きを踏まなければならないのが原則です。

任意出頭は、その名のとおり任意処分ですので、令状などをもらう必要はありません。任意ですので、警察官からの話しかけを無視することも、出頭を拒否することもできますし、一度出頭した後に好きなタイミングで帰ることもできます。

しかし、逮捕には最大72時間以内に検察庁に送らなければならないという時間制限がありますので、逮捕をする前にできる限り取調べ時間を確保したいという警察側の思惑や、令状をとる時間的な余裕がない、令状の発布を裁判所に求めるだけの証拠がない、さらには単に令状をとるのが面倒などの理由から、本人が拒否をしているのに、強引に警察署に連れて行くようなケース、すなわち意思に反して強制的に身体を拘束したというケースも現実に起きています。

このように、本人の意思に反して強制的に警察署に連行する行為は、実質的には強制処分である逮捕にあたります。そしてこの場合、令状を取ることなく逮捕しているので違法な逮捕ということになります。

 

ではどういう場合に、実質的な逮捕、すなわち意思に反して強制的に身体を拘束したといえるのでしょうか(ここは任意捜査と強制捜査の区別として議論されています)

任意同行なのか、実質的な逮捕なのかは、非常に複雑な議論になりますし、本当にケースバイケースです。

そこで、過去の判例などを踏まえて実質的な逮捕かどうかの注目すべき要点を何点かピックアップさせていただきますと、

同行を求めた時間が日中か早朝・夜間などの日常活動外の時間帯か、

同行場所までの移動距離、

同行を求める警察官の人数や態様、

有形力が用いられたか、

同行時や同行後の監視体制、

同行後の取調べが長時間に及んでいたり深夜にまでわたっていないか

等の点と、事案の内容や犯罪の特殊性などの点を考慮して判断されることになります。

 

軽自動車を3台の車で囲んだうえ、その後、5~6人の警察官が自動車を取り囲んでいるという状況は、およそ任意同行を拒否してその場を去ることができない状況であると思われます。

ですので、この事情は実質的な逮捕であるとの判断の根拠になり得る事情であると思います。また、任意同行から逮捕までに12時間以上も任意の事情聴取が行われていることも同様だと思います。

一方で、事案が重大であること、職務質問開始後の現場での説得の時間が10分程度であること、任意同行を求めた場所が道の駅という公共の場所であること、有形力を用いていないことという事情は、適法な任意同行であったと判断される根拠になり得ると思います。

そして、判例などを踏まえると、そんなに簡単に裁判所は任意同行を違法と判断はしないのが実情ではないかと思います。

当然、報道に出ていない同行時の事情や、同行後の取調べの態様など不明な点も多いため、断定的な判断は不可能ですが、今ある事情を踏まえると、個人的判断としては、実質的な逮捕との結論にはなりにくいのかなと考えています。

 

なお、一般論として、任意同行を拒否することはできますが、そのことをもって逃亡の可能性があると判断され、逮捕状の取得を誘発してしまう可能性もあります。

また、車などを警察官が取り囲むような場合に、車のドアを開けて外に出ようとした場合に、ドアが警察官に当たったり、歩いていくのを邪魔する警察官をかき分けたりする有形力を行使してしまうと、公務執行妨害罪にあたるという結果になりかねません。

現場で警察官の挑発に乗らない冷静な対処と、弁護士への相談などを検討することが必要ではないかと思います。

▼関連の報道

http://www.yomiuri.co.jp/national/20180515-OYT1T50021.html

https://www.asahi.com/articles/ASL5G644ML5GUOHB00J.html

http://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000127239.html

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